今冬の電力需給の危機と電力経営インフラ再構築を



令和4年1月27日
セリングビジョン株式会社


(結論)
 電力小売りの自由化に伴う小売市場の競争激化や、原子力発電の長期停止、カーボンニュートラルによる火力発電の抑制や太陽光発電をはじめとする分散型自然エネルギーの増大、地震・台風など自然災害の激甚化や老朽化による電力設備の故障・送電ネットワークの供給支障等、我が国の電力需給は様々な問題を抱えています。
 今はアゲインストの電力経営環境の中、コスト削減、再エネや原子力再稼働への努力などをしているものの、外部要因が多く自助努力では厳しい状況は変わりません。
 このままでは、ネットワークも不安定、電源確保もままならず、電気料金の高騰は続くでしょう。
 しかし、電力インフラ、エネルギーの安定供給体制が脆弱では、日本経済社会の失われた「30年間」を取り戻すのは難しいでしょう。国による抜本的な対策が求められています。

 その背景には下記の6つの背景があるからです。

(背景)
(1)厳しい電力需給の見通し
 人口の減少傾向による内需減少や、感染症の影響による経済の落ち込みなど電力需要の減少要素はあるものの、電力広域的運営推進機関(以下、広域機関)によると、今年度冬季の電力需要は過去10年間で最も厳しい見通しであるとしています。
 原子力発電の長期にわたる運転停止、火力発電の燃料価格の高騰・燃料確保、電力設備の経年劣化等の中、厳冬での電力予備率3%確保も大変厳しい見通しになってきています。まさに、ブラックアウト(電力エリア全域での停電)の可能性も認識をしておく必要があります。

(2)燃料調達問題
 昨年秋からの原油価格の高騰は、各業界や消費者に大きな影響を及ぼしています。
 新型コロナワクチン接種が進み世界的に経済活動が動き出したことによる原油需要の増加がある一方で、産油国の増産見送りやカザフスタンの政情不安等による価格の高騰が起き、我が国も燃料調達は厳しい状況におかれています。
 国内エネルギー資源に乏しい日本では、エネルギー源の多くを原油・石炭・LNGなどの化石燃料の輸入に依存しています。東日本大震災以降は原子力発電所も停止し再生可能エネルギーの活用も進みつつあるものの、化石燃料への依存度は依然として大きいものがあります。
 燃料の安定的な調達のため供給源の確保、特に電力需要逼迫に備えた柔軟な追加調達の確保が必要です。

〇電気料金への影響
 燃料費調整制度とは、火力発電に用いられる燃料(原油、LNG、石炭)の価格変動を毎月の電気料金に反映させる仕組みのことです。ですから、発電に必要な燃料のほとんどを輸入に頼っている日本では燃料価格の変動は電気事業者の経営に著しい影響を及ぼします。
 燃料価格の変動が事業者の経営へ影響を及ぼさず安定化を図る目的で導入されたのがこの制度です。
 三か月間の原油・LNG・石炭の貿易統計価格の実績で算出された平均燃料価格が電気料金設定時に定めた基準燃料価格を上回った場合、1.5倊までの価格差を燃料費調整額として電気料金に加えることができます。
 しかしながら、最近の燃料価格の高騰は1.5倊を超えるなど電力会社の経営を圧迫するところまできています。自由化の厳しい状況の中、電気料金の値上げも含め、今後この制度の見直しを検討する時期にきていると思われます。

(3)原子力発電の再稼働は厳しい状況
 東日本大震災の発生前、日本で使う電力の約30%を原子力発電が賄っていました。しかし東京電力の福島第一原子力発電所の事故により、原子力発電の位置付けが様変わりし、当時54基あった原発のほとんどがいまだ稼働していないか、廃炉を決定している状況にあり、再稼働したのは関西電力・九州電力などのごく一部の発電所にすぎません。
 カーボンニュートラルへの社会的要請が高まる中、CO2削減を目指すには、原子力発電の活用を安全に留意しつつ進めていく必要があります。
 また、火力発電もその依存度は減少が見込まれますが、高い発電効率と高い環境性能を有するIGCC(石炭ガス複合発電プラント)の活用など、CO2 削減に役立つ取り組みも期待されているところです。

(4)カーボンニュートラル
 温室効果ガスの排出実質ゼロ(カーボンニュートラル)を目指す動きは、世界中で注目されてきています。
 我が国においても、昨年当時の菅総理大臣が、2030年に向けた温室効果ガスの削減目標について、政府の地球温暖化対策推進本部の会合で2013年度に比べて46%削減することを目指すと表明しました。
 このため、再生可能エネルギー(水力、風力、太陽光、バイオマス、地熱等)などの脱炭素電源の最大活用が大きな課題となっており、各業界で国の支援を受けつつ積極的に取り組まれてきています。
 既存の電力会社も再生可能エネルギーへの積極的な取り組みを公表してきていますが、特に洋上風力発電事業は全国的に大変注目を浴びており、積極的に事業参入・技術開発の取り組みを進めなければなりません。

(5)送電系統網の課題
 前述の再生可能エネルギー発電への取り組みに加え、送電系統網面からは、多くの分散型電源とも連系しつつ、安定供給を維持していかなくてはなりません。
 分散型電源とは、電力供給の一形態で、比較的小規模な発電装置を消費地近くに分散配置して電力の供給を行うEV(電気自動車)、太陽光、蓄電池などの電力貯蔵方式のことで、これらとの安定した連系が必要です。
 このためにも、地震・台風をはじめとする自然災害の激甚化に対抗して、防災対策とともに経年劣化を危惧されている設備をしっかり補強し、大規模かつ長期の停電を発生させないよう、まさに電力設備レジリエンスの推進に力を入れていく必要があります。

(6)電力会社の経営が不安定な中で日本経済社会は沈没しないか?
 電力レジリエンス推進の一方で、電力会社としては、EV・蓄電池などの普及による電力需要の拡大による利益向上は経営上必須であり、これまでの電気事業で培ったノウハウを活用し、お客様に役立つ電力利用技術の開発にも取り組まなければなりません。
 また、電力会社の持つ知見や不動産をはじめ様々な資源を活用し、新たな事業展開を検討し、行政・他企業とともにより大きな事業の拡大・展開を目指し推進していく必要があります。
 このためにも、資金の確保が大きな課題であります。魅力ある事業計画の確立により、資金の確保を促進していかなければなりません。
 多方面で対応していくためにも、従来以上に経験豊富な優れた人材の確保も重要な課題になってきます。優れた人材の集まる魅力的な企業として、新たな電力会社の再構築が期待されます。


以 上


<お問い合わせ>
セリングビジョン株式会社
〒105-0003
東京都港区西新橋1-9-1 ブロドリー西新橋ビル8F
TEL:03-5251-3101
FAX:03-5251-6020
mail:info@sg-vn.com