米国RCM/CMMSユーザー会議の報告
〜米国の大規模プラント設備に関するRCM/CMMSの協会主催〜

                           

セリングビジョン株式会社
岡部 秀也

  4月上旬に、大規模プラントを有する世界の大企業ユーザー向けにRCM/CMMS(安全性を最重視する戦略を検討。効率を向上させるソフト導入策も議論)のホノルル会議に参画いたしました。
  昨年のラスベガス会議に続いての新しい流れと諸課題をまとめてみました。
  いま世界各国で原子力、航空機、石油・科学、製鉄所などのプラント事故を未然防止して的確なメンテナンスを図ることが重要になっております。
  ぜひご参考にしていただければ幸いであります。

1 開催日時、場所
平成19年4月3日〜6日。
於 米国ホノルル<国際会議シェラトンホテル>

2 参加者
米国など世界各国から360名。(米国、カナダ、豪州、ロシア、日本、韓国、タイ、仏国、英国、サウジアラビア、コロンビア、ポルトガル、スウェーデン、オランダ、イラン、クウエートなど)  大型プラント(航空業界、原子力等の電力・原子力会社、石油精製会社、ガス会社、化学会社、製鉄会社、食料加工会社、水道等の公益会社)を運転・保守する大企業の管理者・エンジニア、および学識経験者とコンサルティング会社の経営者。 一年に一度、集合してユーザーとしての課題と解決策を率直に語り合い、学ぶ会議。

3 会議参加の目的意識と意義
世界からの有数の航空業界や原子力発電所等の電力会社の実務責任者や、他業界のプラント設備保全の責任者等が一年に一回、集合してユーザーとしての課題と解決策を率直に語り合い、学ぶ会議。世界の一流の有識者と自由な意見交換をして人脈を広げられ、コンサルティングを営むセリングビジョンとしても、本会議に参加して、各国・業界における豊富な情報<プラント管理のベストプラクティス、効果的研修、システム化ノウハウ等>を得ることができた。

4 今会議での参加者等の特徴と日本
<参加各国・企業の特徴> 
・日本からは、当社ばかりか、4社が参画するもプラント会社は不在。
  今回は、前回の一年前のラスベガス会議と異なり、日本からはセリングビジョンだけの参加ではなく、当社が参加勧奨をしたこともあり、日本メンテナンス協会、ユニシス等から、8名が積極参加していた。しかし電力・原子力などプラント会社からの出席者はおらず、まだまだプラントの効率的・安全な保守に関しては残念ながら大きなユーザー自身の経営問題として重視はされていないという印象が残った。
・ 原子力のウエートが発電量の半分を占める韓国電力業界が異彩を放つ
  韓国からは、多くの電力会社、原子力発電会社等から十数名も参加し、存在感が目立った。
  設備利用率が90%と高い韓国電力会社などや大手製鉄所のマネジメントスタッフも参加。
・米国は航空・原子力の保修の大御所が参画し会議をリード
  最大手の米国はプラント設備の活用、保修に関するビッグな企業、著名人が参加。
  NRC(米国原子力規制委員会)EPRI出身の有識者、GE、著名電力・原子力会社や、航空関係のNASA、ロッキードマーチン、空軍、あるいは食料品のカーギルや化学のデュポン、保険のAIGなどの有識者も講演をし、経営者の立場から発言も目立った。
  個人的に米国の原子力プラントの安全と効率的資産運用で著名な大御所的存在のアラン・ブルーム博士と再会を果たせ、しかも新たにマック・スミス博士(GE出身でRCMの導入実践の大家)と意見交換もでき新情報を得られ大変幸いであった。 (別添写真を参照)
・ 欧州や南米からの遠方からもプラント関係者やコンサル会社が意欲的
  地理的なアクセスがいい豪州からの参加者が多い一方で、遠方から欧州ばかりか南米や中東諸国も二十時間ものフライトをかけて熱心に参加。遠隔地からはコンサル会社の参加が目立ったのは、プラント会社からのビジネスコンサルを受けてのもの。
<RCMベースのプラント保全へのカイゼン意欲が高まる中で日本の遅れを痛感>
  世界の多くの国においても企業経営の視点から、大規模プラントの安全で効率的運転とメンテナンスが一層重視されつつあり、単なる業務プロセスの改善やシステム導入の一過性の問題でなく、より継続的でベターなシステム選択と組織改正、企業風土の抜本的な見直しまで含む大型プラント資産管理・保修の「カイゼン」の必要性が世界的に高まっていることを膚で感じた。
  なぜか日本ではそうした意識が依然として高まっておらず、現状維持の従来の業務を是として、カイゼンやシステム化が遅れているというギャップを痛感した。

5 プラント管理・保修への新たな視点
・ プラント資産保全は大企業の格付けの重要指標
  世界的な有名保険会社AIGの役員やGEの幹部から、「金融機関や大株主は、プラント資産をもつ大企業への格付けとして、その設備利用率のレベルや資産保守管理による収益向上を厳しくみることになる。とくに大事故やプラント停止を頻繁に起こす企業は、株主の追及が高まってくる。プラント資産への保全システム導入とプロセス改善によるEPS(一株当たり利益)、ROI(資産投資収益率)向上は、電力・原子力・航空会社などの緊急の経営課題になってきている」との指摘があった。プラントの保全は、現場の設備維持のレベルから経営マターになってきている。実際、米国の四大大手会計コンサル会社は上場企業の格付けに資産管理の巧拙をあげている。
・ 経営者は(に対し)保全現場の実態をデータで理解せよ(させよ)
  最近の業績の好調な米国経営者(デュポン、ボーイングなど)はプラントの保全をコストと見るのではなく、収益を支える基盤であるとの認識をもつようになってきている。(ワークショップの意見) 現場での資産管理や保全の状況を知らず、大切な資産を有効活用せずに、本社で数字を追っている経営者(MBA資格者など)に対しては、プラント保全が利益率などの具体的な数値にいかに寄与しているかを立証していくことの必要性や具体例が出されていた。
・ RCMは掛け声だけでは失敗、PDCAを回転しつづけること
  RCMという大型プラントの安全性を重視したメソドロジーでは企業が主体的にやるべきメンテナンスの戦略を描くが、この戦略に基づき、プラントへの保全業務プロセスを見直し、その保修実績の事例をデータベースとして構築し、システム化していくというPDCAを回すことが必要である。そしてそのデータや実績・経験に基づき、新たなRCM手法を取り入れ、一連のPDCAを継続的に回転させることが肝心である。その裏腹には、一過性の応急対策をRCMという形だけで、現場に導入しても成功はしないということが改めて、参加者からの発言で浮き彫りになった。
・ データ整備、科学的計算、合理的評価など日本の原子力は遅れが心配
  RCMを原子力発電所の保全のために理論的に立案して、実行するには、過去の細部にわたる機器別の保全データや故障履歴、保全スケジュールと実績など膨大なデータのインプットと、そのデータ活用による確率計算、ライフサイクル評価、事故時の緊急対応策などが必要不可欠であり、それを科学的に導入していない日本の原子力発電所は、米国に5年以上、遅れをとっていると痛感した。米国ばかりか韓国や欧州では、その合理的な見直しと企業の対応が早くなってきている。
・ RCMの次に、メンテナンスの現場の計画立案とスケジューリング化を
  今回は、特別に保全現場での、具体的な「メンテナンス計画とスケジュール」「保全マネージャー用のRCMツール」という実践的なワークショップにも参加し、具体的なケースについての一日勉強も、チーム(小生は、カナダ、豪州、米国のスタッフ)の一員として参加できた。米国のセミナーやワークショップは、非常に具体的でわかりやすく、参加者のモラルアップに努めていたので、本では学習できないことも汲み取れた。これを通じ、現場での保全計画と予定を組むためには、かなりの研修プログラムが必要であり、海外の研修のプロや同業者との議論なども即効性があると感じた。
・保修、運転、所長スタッフなどでのチームワークづくり、Facilitatorの工夫
  とくに発電所が分散して多くの保修スタッフがおり、メーカー、関係会社、下請け会社等に業務を依存している場合には、かなり入念でしっかりした継続的な研修プログラムが不可欠であろう。発電所の中にあっても、運転員、保修員、電気機械スタッフ、プラント所長等の間で、意思疎通が難しく、縄張り意識が強く、事故情報の共有とアクションの迅速化が大きな課題となっている。RCM、CMMSを失敗しないためには、保修スタッフばかりか、運転員、電気機械スタッフ、所長スタッフなどをチームとしてあたらせ、Facilitator(率先者であり調整アドバイザー)の選定がカギとなるとのことであった。チーム意識を醸成するため、褒賞制度やロゴマーク入りのシャツ(RCMチーム)が有効との発表も、GEやロッキードマーチン社(軍事衛星、ミサイル製造プラント)から出ていた。
・ 大規模プラント業務を知り、システムがわかるコンサルティング会社を選定
  今回、コンサルタント会社の経営者の出席が多かった。米国ばかりか、豪州や、フランスなどからも参加していた。プラント保全に関する研修やシステム化、業務プロセスの改善、あるいはデータ管理など、プラント所有企業がコアの事業に集中しているなかで、外部のコンサルティング会社との連携は,RCM/CMMSを導入するためには必須の条件である。とくに、海外の実情や、RCM/CMMSの世界を知り、プラント保修業務を知り、内外の人脈を活用できるコンサルティング会社は重宝されている。当社も、二年連続、本会議・ワークショップに参加し、その一翼を果たしたいと考えている。



(ホノルル国際会議場でAIG役員から「資産保全と企業格付け」基調講演)

(大規模プラントメンテナンスの議論に参加して)

(マック・スミス博士のワークショップ後に氏から著書「RCM〜Gateway to World Class Maintenance」にサインをいただきました)

以 上